腰椎椎間板ヘルニアの症状や治療法について

腰椎椎間板ヘルニアは20〜40代の男性に多く見られる疾患です。腰椎椎間板ヘルニアは自然に縮小・吸収されることが多く、近年では手術件数が減りつつあり、患者さんのライフスタイルに合わせた治療法を見極めていくことが重要です。

原因とメカニズム

腰椎椎間板ヘルニアは年齢とともに変性している椎間板に負荷が加わることで、繊維輪から髄核が飛び出てしまい、神経根を圧迫して腰痛や下肢のしびれを引き起こす疾患です。このように髄核が飛び出した状態のことをヘルニアと言います。ヘルニアの5〜6割は3〜6ヶ月で縮小もしくは消失します。

腰椎椎間板ヘルニアの好発部位は、第4腰椎と第5腰椎間、第5腰椎と仙椎間の椎間板です。また随核の脱出程度により、「髄核膨隆型」・「髄核突出型」・「髄核脱出型」・「髄核分離型」の4つのタイプに分類されます。

ヘルニアの分類

椎間板ヘルニアの原因は加齢による椎間板の変性や、スポーツ、日常生活動作、喫煙などがあります。また近年では家族集積性(同一家族内で同じ疾患や体質が現れやすい)が高いと言われています。

腰椎椎間板ヘルニアでみられる症状とは

主な症状は腰痛と坐骨神経痛です。ヘルニアの影響が馬尾神経に及ぶと、下肢に麻痺やしびれ、運動機能障害、排泄障害が生じます。この場合は緊急に手術が必要で、手術が遅れると障害が残ることがあります。

疼痛

腰痛や下肢に痛みやしびれが生じる坐骨神経痛が現れます。動作としては、前かがみになった時や物を持った時に痛みが強くなります。他にも咳やくしゃみによって下肢痛(しびれ)が増悪するデジェリーヌ徴候が出現することもあります。

基本的には身体を動かすことで強い痛みが出ることが多いですが、安静にしていても痛みが起こることがあります。

疼痛性側弯

痛みを避けるために腰に手を当て、かばうように歩いたり、身体が楽な体勢をとっている姿勢です。上半身が側方へ傾き、姿勢が曲がっている状態を指します。

麻痺・運動機能障害

知覚障害、運動神経麻痺、脚の力が入らない、脱力感等症状が現れます。例えばスリッパが脱げやすくなったり、ちょっとした段差につまづいてしまいます。

膀胱直腸障害

馬尾神経が圧迫されることで、頻尿、尿もれ、残尿感、便秘等を生じることがあります。酷くなると失禁や尿閉をきたすこともあります。

検査・診断

問診にて腰、脚の痛みやしびれ等、症状を把握します。

下肢伸展挙上テスト(SLRテスト:Straight Leg Raising Test)

下肢伸展挙上テスト

仰臥位(あお向け)で膝を伸ばした状態で、患側下肢を挙上し坐骨神経痛の出現を見ます。椎間板ヘルニアの代表的テストです。

 

 

ケンプテスト(Kemp Test)

ケンプテスト患者を座位または立位とし、腰椎をななめ後ろ側に倒しそのまま回旋します。これを左右両方おこないます。

 

 

 

像検査では筋肉や神経など軟部組織の状態を鮮明に写し出すことが可能なMRI検査が有用です。必要に応じて単純X線、CT、脊髄造影検査、神経根造影検査などをおこないます。

保存療法

日常生活においての注意点

日常生活においては、痛みの程度に合わせて活動を制限し、安静を保ちます。
ヒールやサンダル、スリッパをやめて、歩きやすい履物を選びましょう。

薬物療法

痛みを軽減する目的で、非ステロイド性消炎鎮痛剤、アセトアミノフェン、筋弛緩薬、ビタミンB12製剤、オピオイド鎮痛薬、神経障害性疼痛治療薬(プレガバリン)などを組み合わせて使用します。

ブロック療法

痛みが強い場合や、薬物療法での症状の改善が見られない場合に、硬膜外ブロックや神経根ブロックをおこないます。

硬膜外ブロック

脊柱管内の硬膜外腔に局所麻酔薬を注入することで、脊髄神経に麻酔がかかり、脊髄付近の炎症や痛みを和らげます。硬膜外腔に麻酔薬が作用し、痛み情報が脳に伝導する経路を遮断します。腰椎椎間板ヘルニア以外には腰部脊柱管狭窄症などに用いられます。

神経根ブロック

神経根に直接、局所麻酔薬を注入するため、その神経根が支配する範囲に高い効果が期待できます。腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなど、原因となる神経が限定されている腰椎疾患や硬膜外ブロックで改善が見られない場合に用いられます。

手術療法

保存療法を行なって3ヵ月以上経っても症状の改善が見られない場合や、腰痛や坐骨神経痛により仕事や日常生活の支障が大きい場合は、手術を検討します。

一般的な手術は後方ヘルニア摘出術で、近年では傷口が小さい内視鏡下の手術が増えています。その他にも経皮的髄核摘出術やレーザー治療も行われています。

働き盛りの年齢(20代〜40代)での発症が多いため、保存療法で治癒が見込める場合でも、長期の入院や仕事に差し支えるなどの理由で手術を希望される方が多いです。

PLDD法 経皮的レーザー椎間板減圧術

局所麻酔にて患部の椎間板に針を通し、その中にレーザーを照射して、椎間板の中にある随核をレーザーで焼くことで空洞ができます。空洞が形成されることで椎間板が萎縮し、神経の圧迫していたヘルニアが引っ込み痛みやしびれが軽減されます。

メスを使わないため出血もなく、傷も残りません(針の穴程度)。手術も20分ほどで済むため、入院も必要ありません。

PODD法:経皮的オゾン椎間板減圧術

オゾンを噴射することで椎間板内の内圧を下げ、神経の炎症を鎮めます。

局所麻酔をかけ穿刺針を患部となる椎間板に挿入します。突出している椎間板にオゾンを注入することで、随核に空洞ができ椎間板が縮小します。オゾンは抗炎症作用があり、炎症による疼痛軽減効果があります。治療は20分ほどで入院は不要です。

MED法:内視鏡下椎間板摘出術

保存療法でも改善が見込めない様な、症状が中程度から重度の方が適応となります。全身麻酔にて施行されます。皮膚を18〜20mm切開し外筒挿入し、内視鏡を設置しモニターをみながらヘルニアを摘出します。

手術は約1時間程度で傷口は2㎝と小さいため、術後の痛みや合併症が少ないとされています。熟練した専門医の技術が必要なため、専門の病院でないと対応が難しいです。

MD法:顕微鏡下椎間板摘出術

全身麻酔にて施行されます。背部を3〜5cmほど切開し、顕微鏡を用いた手術になります。中程度〜重度の変性した椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の場合に適用されます。

傷口は3〜5cmとやや大きくなりますが、様々なヘルニアに対応が可能です。

PELD法:経皮的内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術

局所麻酔後、治療箇所を8mmほど切開し、細い内視鏡(約7mm)を挿入してモニターで椎間板を観察しながら椎間板ヘルニアを摘出します。

PLIF:後方椎体間固定術

全身麻酔にて腰椎の後方から変性した椎間板を摘出し、神経の圧迫を解放した後に椎間板にケージといわれる人工物を挿入します。レントゲン透視下でスクリュー等を挿入し、さらにネジで固定することで椎体を安定化することができます。

 

No.0026

監修:院長 坂本貞範

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