野球肘は病態が単独で起こることが少ないため、さまざまな病態を考えて適切な診断をしなければなりません。また早期の病態では診断が難しく見逃されることがとても多いため、痛みを訴え続けていた保護者からの不満や怒りが多いとも言われます。そのような事態にならないためにも、画像検査を用いて適切な診断が必要となります。
X線検査(レントゲン検査)
患側の正側2方向撮影だけでは、上腕骨小頭前下方に多く発症する離断性骨軟骨炎 (osteochondritis dissecans:OCD)の初期像や、リトルリーグ肘(little leaguer's elbow)の内側上顆下端剥離骨折、肘頭骨端離開を見逃すことが多いです。そのため患側は45°屈曲位正面で小頭の接線方向撮影に加えて、伸展位で内側45°からの斜側面撮影が必要です。
発育期の症例では、これに加えて健側の正側2方向画像との比較で初めて診断できることも多いとされています。スポーツ選手では利き手側の骨端発育線が先に閉鎖するので、投球側の骨端線の閉鎖遅延があれば病的であることがわかります。
MRI検査
肘の内側側副靱帯(medial collateral ligament: MCL)損傷の確定診断にMRI撮影は必要ではありますが、撮像条件が適切でないと大事な情報が得られません。靱帯および関節軟骨はT1およびT2強調画像、いずれでも低信号で現れますが、新鮮断裂では出血や関節液の漏出の結果、損傷部はT2強調画像で高信号となります。関節液が漏れる事によって受傷後3-6か月しても高信号部が残存することがあります。
陳旧例となり関節液の漏出がなくなれば、靱帯損傷部は周囲筋と同様の等信号で表されます。矢状断像ではMCLの前方線維のみが残存しているか、小児期の剥離骨片部で再損傷が起こったかなどの情報が得られます。
有症候性の滑膜ひだは腕撓関節および骨棘のある肘頭周囲に形成されるので、この部分にT2*強調画像で低信号の索状物としてみられます。
X線像でハッキリとしないOCDの超早期像は、上腕骨小頭部のT1強調画像での低信号化です。またT2強調画像での高信号化は、X線像で所見が出てから出現することが多いとされています。活動期の離断性骨軟骨炎では、病巣周辺の浮腫部までT2強調画像で高信号になり、CTの病巣より大きく描出されます。
超音波検査
MRIのような正確さを求めるより、外来でのスクリーニング検査として有効です。上腕骨離断性骨軟骨炎あるいは内側側副靱帯損傷の発見など、MRI検査の必要性の判断には便利です。通常は10MHzのプローブが用いられます。
CT検査
OCDの骨病巣、関節内遊離体の局在同定、MCL損傷における剥離骨片、肘頭疲労骨折の骨折線の走行、変形性肘関節症 (osteoarthritis:OA)の骨棘・遊離体の描出には特に有効とされています。
断層像に加えて三次元再構成画像 (3D-CT) も有効とされています。
No.0037
監修:院長 坂本貞範