変形性股関節症とはどんな病気?

人体で最大の関節は股関節だと言われています。股関節は身体を支えているだけではなく、立ったり座ったり歩いたりなど日常生活で多い基本動作に関わる関節です。そして股関節の疾患で最も多いのは、変形性股関節症と呼ばれているものです。

変形性股関節症は気づかない内に進行していく疾患であるため、「段々と痛みが出てきた」「何か以前より歩きにくい」などの症状が出てきます。このように股関節部分にある軟骨が少しずつ無くなっていくと、股関節の痛みや歩行障害などが現れてくる疾患です。

変形性股関節症の特徴的な3つの症状

股関節の痛み

変形性股関節症の一番の訴えとも言われるのは股関節部の痛みですが、状態は変形の進み具合によって個人差があります。

軟骨が無くなり始める初期の段階では、股関節に痛みが出ることはほとんど無いですが、軟骨が少しずつすり減ってくると、股関節の付け根部分や大腿骨の大転子と言われる周辺部に痛みや違和感が出始めます。
歩き出しの最初の一歩、座った状態から立ち上がる時、階段昇降時の時などに突然痛みが走る始動痛と言う特徴的な症状がありますが、変形が進行すると痛みを感じる時間も長くなっていきます。

進行期が末期までくると、寝ている時も痛みで眠れない、横になり安静にしていても非常に強い痛みが続くこともあります。

股関節 進行期

跛行(はこう)が起こる

変形性膝関節症生股関節症では、跛行と呼ばれる症状もあります。破行とは痛みや筋力低下などにより脚を引きずった状態で歩いたり、足をかばいながら歩いたりすることで、変形性股関節症が悪化してくると度々見られる代表的な症状の1つです。破行には疼痛性のものや、トレンデレンブルグ徴候、ドゥシャンヌ徴候と言われるものがあります。

破行が起こる原因としては、痛みのある足をかばい安静することによって起こる筋力の低下や、左右の脚の長さに違いが見られ、それにより股関節が安定せず身体のバランスが悪くなることにより起こります。

以上歩行

股関節が動かしにくい

股関節に痛みがある状態が続くと、関節の周りにある筋肉が次第に硬くなっていき、股関節の動きが悪くなることもあります。これにより関節の運動が制限されることを関節拘縮と言います。関節拘縮を起こすと股関節を深く曲げる動作ができなくなり、足の爪切り、和式トイレ、正座などの動作が行いにくくなります。

その後、関節拘縮の症状が最終段階まで進んでいくと、股関節の骨盤が片方だけ傾いてしまい、脚の左右の長さが変わる脚長差が現れることもあります。この脚長差は骨盤の傾きにより見られるものであり、実際の脚の長さが短くなっているわけではなく、見かけ上の脚長差と言えます。ところが股関節の変形が進行すると、関節部分の骨が潰れることで脚が短縮したり、関節の位置がずれることでも脚長差が生じます。

股関節の構造と発症について

股関節は骨盤と大腿骨を合わせた人体で最大の関節です。骨盤にある寛骨臼の臼蓋と言われている皿のような形をした部分に、太もも側である大腿骨の先端にある球形の大腿骨頭がはまり込んだ構造になっています。

骨頭部と臼蓋部には、関節にかかる衝撃を吸収するクッションの働きをする軟骨があり、骨同士が直接あたらないようなっています。さらに関節部分には袋状の関節包が関節部分を包み込んでおり、この関節包の中には関節液という液体で充満しています。その関節液は潤滑油のような働きがあり、関節を動かす際の摩擦を無くしてくれます。それ以外にも、軟骨部分に栄養を供給させる大事な役割も持っています。

軟骨の成分はコラーゲンや水でできており、神経や血管は存在しないため、多少軟骨が減ったぐらいでは痛みを感じることはありません。ですが軟骨部分の状態が悪化して、軟骨が徐々になくなってしまうと、軟骨部分の下に隠れていた骨が少しずつ出てきてしまい、骨同士が直接ぶつかり合うことになり痛みが発生します。

また骨同士がぶつかり合うことで、骨が固くなってしまう骨硬化(こつこうか)や、骨の端がトゲのような形になる骨棘(こつきょく)が出現するようになります。さらに症状が進行すると、隣接している骨の周辺に穴が開く骨嚢胞(こつのうほう)も出現することがあります。

股関節 関節液

変形性股関節症が発生する原因

変形性股関節症になる原因は一次性と二次性の2つがあります。

一次性変形性股関節症

特徴としては欧米人によく見られるパターンで、股関節部分に負担が大きい運動をしている方や肥満体型の方、長期間の重労働で肉体をよく使う仕事を続けている方に多くみられます。また股関節自体になんの問題が無くても、加齢により徐々に軟骨が減っていき、ある時突然の痛みなどで症状を自覚します。

二次性変形性股関節症

二次性の原因は日本人によく見られるパターンで、股関節部の骨の形に生まれつき異常があり発症する場合です。

二次性変形性股関節症で圧倒的に多いとされるのは、乳児や幼児の時に起きる病気の後遺症であり、代表的なものは発育性股関節形成不全や臼蓋形成不全があります。発育性股関節形成不全は、赤ちゃんの時に巻きオムツと言う昔のオムツの巻き方をしていたり、股関節が伸びた状態で赤ちゃんを抱っこすることにより股関節の脱臼が起こる疾患ですが、現在は紙おむつが普及しており発症率は少なくなっています。

臼蓋形成不全は臼蓋部分が未完成のまま成長する疾患です。これらの疾患は自覚症状がほとんどないまま過ごし、ある一定の年齢を超えた際に突然発症することが多いです。

またこれらの疾患は女性に起こりやすいとされているため、変形性股関節症は比較的女性の患者さんの占める割合が多いのも特徴的です。女性の有病率に関しては男性の2倍もの数値となっており、女性特有の骨盤の形状や、筋力が男性より少ない点が女性に多い要因となっています。

日々の生活から注意できること

変形性股関節症は、股関節に過度な負担のかかる日常生活や仕事をしているうちに悪化してしまいます。もしも変形性股関節症と診断されたのなら、自分の生活に問題がないか、生活習慣を見直して改善が可能なところから取り組みましょう。

体重のコントロール

体重を支えている股関節には、歩いている際には体重の約3倍が、何かに座っている状態から立ち上がる際には約7倍、もっと低い位置から立ち上がろうとすると約10倍もの負荷が股関節にかかると言われます。ほんの少しの体重増加でも、股関節には過度の負担となり、痛みなどの症状の悪化がみられます。
肥満体型の方は食事内容の見直し、運動をすることで脂肪を燃焼させ、適正体重を維持できるように心がけましょう。

冷えの予防

体が冷たくなると血流が悪くなり、筋肉まで硬くなると痛みが出やすくなりますので、普段から服装などに気を付けましょう。特に足元を冷やすと脚の血流循環が悪くなりますので、レッグウォーマーやお風呂などで温めるとより効果的です。ただし、炎症により熱を持っている時や腫れが出ている時に温め過ぎると、逆に症状が悪化することがありますので入浴は避けましょう。

日常生活動作を見直してみる

和式の生活は股関節部への負担が非常に大きいです。例えば和式のトイレや布団を敷いて寝る行動などが当てはまります。

ベッドやイス、洋式トイレなどの生活スタイルに変更して、股関節への負担を軽減するようにしていきましょう。また、普段履いている靴は、底の硬い靴やハイヒールなどは避け、フラットな運動靴などを選択するようにしましょう。

負担の軽い運動

筋肉の緊張を緩めて股関節の柔軟性を保ち、また筋力が落ちないように維持するためには、適度に体を動かすことがオススメされます。

水中ウォークや水泳は水の浮力で関節に負担をかけないように行えるので、変形性股関節症の方には特に有効な運動です。

股関節の状態や体力に合わせた運動を行うことで可動域を少しずつ広げていき、痛みの減少につながります。ただし運動による痛みが出た時は、関節や筋肉に炎症が起きている可能性がありますので、一度運動を休止して様子をみましょう。

変形性股関節症の検査

変形性股関節症の診断には、問診やX-P検査(レントゲン)が重要となります。問診では痛みの度合いや持続する時間、いつ頃から痛みが出始めたかなどを確認して、股関節の軟骨の減り具合や、骨の状態を確認していくためにX-P検査をします。

軟骨はレントゲン検査では写りませんが、臼蓋部と大腿骨頭のすき間があれば軟骨はまだ存在しているということが確認できます。反対に、臼蓋と大腿骨頭のすき間が見えなくなり、骨同士が接近している場合は、軟骨が擦り減っている可能性が高いということです。また臼蓋や骨頭部分の形など、骨そのものの変化をレントゲンにより確認することができます。ただし、レントゲン検査で確認できる情報は限られていますので、より詳しい情報を得るにはMRIやCTの検査が必要です。

そのほかでは、関節リウマチなど他の病気が考えられる場合、血液検査や股関節の関節液を取って成分を検査する関節液検査を調べることもあります。

変形性股関節症の治療方法

変形性股関節症の治療では、大きく分けて症状を抑制するための治療と、手術の方法の2つがあります。診断を受けてすぐに「手術をしましょう」ということはなく、まずは薬物療法や運動療法といった痛みを和らげる治療から開始していきます。

強い痛みを解消する為の薬物療法

薬物療法はあくまでも今ある痛みを軽減するための対症療法となっており、一度傷ついてしまった関節を元の状態に修復させることはできませんが、現在の苦痛を和らげることで、患者さんの生活の質(QOL:Quality of Life)を高めることが可能となります。

急性期のつらい痛みや寝ている際の夜間痛などは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であるロキソニンやボルタレンなどの鎮痛剤を服用します。非ステロイド性抗炎症薬では、炎症や痛みを引き起こしている「プロスタグランジン」と言われる物質の生成を抑える効果があります。

ただし、内服薬は即効性が高いですが、長期間の服用をしていると胃腸や腎臓の機能障害などの副作用が出てくることがあるため、患者さんの状態に合わせて湿布や坐薬なども活用して経過を見ます。

可動域を広げて筋力アップを行う

酷い痛みが出ている時には安静が必要となっていますが、痛いからと言って長期間動かさないでいると、次は筋肉が固まってしまい可動域が段々と狭くなっていきます。

股関節部分の動きが悪化すると、軟骨に栄養分を与えている関節液が全体に行き届かず、軟骨の状態が悪化する恐れがあります。そこで痛みの症状が落ち着いてきたら、医師や理学療法士の指導を受け、関節部分を動かしやすくするためのストレッチをしていきます。

さらに太ももやお尻部分、お腹周りなど股関節周辺の筋力を強化していくと股関節の負担を軽くすることがでますので、患者さんに適した強さの筋力向上を目指し、筋力トレーニングも少しずつ行っていくと良いでしょう。

治療の最終手段は手術を行う

薬物療法などでは大きな改善効果が見られず、患者さんの活動が制限されている場合は、状態や時期を考えて手術を検討する必要があります。手術では、自分の関節部分の骨を温存していく骨切り術や、関節の一部分や股関節全体を人工関節に変えてしまう全人工股関節置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)などがあります。

骨切り術では、自分の骨を活かせることが最大のメリットになりますが、リハビリに長期間かかるのがデメリットです。それに対して人工関節の場合では、関節を人工物に入れ替えることにはなりますが、リハビリが短縮されるため社会復帰が早いというメリットがあります。

どちらの手術をすればいいかは、股関節の状態や患者さんの年齢、職業、生活背景、社会復帰をするまでの時間なども考えた上で選択が必要です。

THA

まとめ

変形性股関節症は進行性の疾患のため早期治療が重要なカギであり、リハビリにより進行を遅くらせて痛みを軽減していくことで、前向きな日々を送れるようになります。反対に放っておくと、一時的に痛みが軽減することはあっても、関節の変形が改善されることはありません。むしろしばらく期間が空いてから、再び痛みを感じてレントゲンを撮ってみると、変形が進行していたというケースも多いです。

変形の進行を少しでも防ぐためには、症状が感じられたり、「何か違和感があるな?」と感じた時に、なるべく早く医師の診察を受け、日常生活の改善や自分でも取り組めるリハビリをすることが大事です。

日常生活においても、杖や押し車などを使って歩くと股関節への負担をグッと減らすことができますので、痛みのない生活に変えていけるように、今一度生活スタイルの見直しなどを行い、なるべく手術の選択をしないですむように日頃から気をつけましょう。

 

No.0025

監修:院長 坂本貞範

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