変形性膝関節症にみられる歩行動作とその特徴について

変形性膝関節症の症状

変形性膝関節症の男女比は1:4で女性に多くみられ、高齢者になるほど変形は起こりやすくなります。主な症状は膝の痛みであり、また関節内に水がたまることもあります。

最初は立ち上がりや歩きはじめなど、動作の開始時のみに痛みを感じますが、休めば痛みがとれることが多いです。しかし、症状が進むと正座や階段の昇降が困難となり、安静時にも痛みがとれなくなります。また変形が進行すると、膝がピンと伸びなくなり、歩行が困難になることもあります。

治療

症状が軽い場合は、痛み止めの内服薬や外用薬を使ったり、膝関節内にヒアルロン酸の注射などをします。また大腿四頭筋の強化訓練や関節可動域の改善訓練、膝を温めたりする物理療法を行います。

このような治療でも治らない場合は、手術治療も検討します。手術には関節鏡(内視鏡)手術、高位脛骨骨切り術(骨を切って変形を矯正する)、人工膝関節置換術などがあります。

膝 手術の種類

痛みが起こる原因

膝は体重の負荷がかかる関節ですが、その衝撃を軟骨や靭帯や筋肉のサポートによって和らげています。変形性膝関節症の痛みは、その中でも特に軟骨へのストレスにより発生することが多いです。軟骨へのストレスとは、関節の冷え、肥満による荷重の増加、O脚やX脚などのアライメント不良などがあります。また、運動や仕事の内容よっても、膝への負担が大きいものがあります。他にも膝周辺の筋力が低下することでも、関節をサポートする力が弱くなり、軟骨へのストレスが増えます。とくに脚の内側の筋肉が弱くなってくると、膝関節が不安定になりやすく、痛みの原因になります。
また骨は常に古い細胞を壊し、新しい細胞が生まれており、これを骨の新陳代謝といいます。ところが閉経とともにホルモンの分泌が減少し、新陳代謝のバランスが崩れると、骨が弱くなります。その結果、変形が進行して、痛みも出やすくなります。

膝の変形

変形性膝関節症の病気分類

変形性膝関節症は初期、進行期、末期に分けることができます。

初期

痛みの強さ
通常の生活を送ることはできるが、歩き出しや立ち上がりなど、動作の開始時に少し痛みがある。ただし、比較的早く痛みは消える。

関節の変形
関節軟骨が少しずつ減少し、軟骨に亀裂のような細かい損傷がみられる。

O脚の程度
まだO脚はみられないか、膝と膝の間隔が少しあくことがある。

膝に現れる症状
イスから立ち上がろうとする時や、階段の上り下りをする時に膝が重い。
起床時、膝がこわばりを感じるが、しばらく動いていると症状が消える。

進行期

痛みの強さ
日常生活において、痛みにより困難な動作がでてくる。特に正座はできなくなることが多い。

関節の変形
関節の間が狭くなり、軟骨のすり減りが強くなる。また骨の端がトゲのように尖った変形がみられる。

O脚の程度
関節の内側の変形が進み、O脚の程度が強まる。

膝に現れる症状
膝がまっすぐに伸びない。曲げる角度にも制限がみられる。
膝に腫れがあり、水がたまる。(関節水腫)

末期

痛みの強さ
痛みの程度が強く、杖や押し車を使わないと歩くことが困難になる。

関節の変形
関節軟骨のすり減りが強く、軟骨の下の骨まで損傷がみられる。関節の隙間がなくなる。

O脚の程度
O脚の変形が著明にみられる。

膝に現れる症状
膝関節が不安定になる。可動域が狭くなり、爪を切る動作などができなくなる。

膝 進行分類

変形性膝関節症になると、痛みや可動域制限により、正常の歩き方ができなくなります。そこでまず、正しい歩行から説明していきます。

正常の歩行

片側のかかとが接地してから、再び同じ方のかかとが接地するまでを歩行周期といいます。歩行周期を一方の脚だけみてみると、足部が地面に接地している時期を立脚期、足部が地面から離れている時期を遊脚期といいます。

立脚期(足部が地面に接地している時期)

① かかとが接地する踵接地(しょうせっち)
② 足底まで接地する足底接地
③ 反対の足が地面から離れ、全体重が支持脚を通して足底にかかる立脚中期
④ かかとが地面から離れる踵離地(しょうりち)
⑤ つま先が地面から離れる爪先離地

以上、立脚期は5つのサイクルからなります。

遊脚期(足部が地面から離れている時期)

① つま先が地面から離れる爪先離地
② 両足が交差し、さらに反対側の足を超える
③ 膝から下の足が地面と垂直になる
④ かかとが接地する踵接地

以上、遊脚期は4つのサイクルからなります。

歩行動作

変形性膝関節症が進行すると、膝の可動域が狭くなりますが、歩行においては特に膝が完全に伸びなくなると、歩行周期に支障が出てきます。膝が完全に伸びないということは、かかとが地面に着く時に、膝がしっかりと伸ばせていないということです。そうなると、必然的に歩幅は狭くなります。

それだけでなく、体重をかけた時に痛みが出ると、膝をかばう動作により立脚期が短くなり、その反面、遊脚期が長くなります。またO脚のように変形している人は、体重をかけた時に、膝が外側にぶれてしまう、ラテラルスラスト(lateral thrust)という特徴的な歩行がみられます。

ラテラルスラスト

またラテラルスラスト以外にも、歩行周期における膝の異常運動がありますので、説明をしていきます。

歩行時の膝の動き

正常な歩行では、膝は進行方向に対してまっすぐ前側に出します。しかし、膝に変形を抱えていたり、間違った体の使い方をしていると、膝に異常な動きがみられます。

ニュートラル(正常)
両足の爪先が揃って正面を向き、膝を曲げる時にまっすぐ正面に動いている。
膝の動きと爪先の方向が揃っているので、膝関節に捻じれが起こりません。

ニーイン(X脚傾向)
地面に足を着き、膝を曲げる際に、膝が内側にぶれる動き。
内股になればなるほど、爪先と膝の向きの差が大きくなり、膝の捻じれが強くなります。

ニーアウト(O脚傾向)
地面に足を着き、膝を曲げる際に、膝が外側にぶれる動き。
ガニ股になればなるほど、爪先と膝の向きの差が大きくなり、膝の捻じれが強くなります。
先ほど説明したラテラルスラストは、こちらの動きになります。

人体の構造上、つま先が向いている方向と同じ方向に膝を曲げるのが、正しい体の動かし方です。しかし人によって、膝を内側や外側に傾けて動かす癖を持つ人がいます。日常生活では何も問題を感じることがないかもしれませんが、積み重ねにより変形が進行する場合があります。

靴のすり減り方から見た歩行異常

また靴底をみれば、歩行の異常がわかることもあります。そこで続いては、靴底の減り方について説明をしていきます。

特に靴底の外側が減る人
O脚の人によく見られます。
変形性膝関節症ではO脚変形になる人が多く、靴底の外側が減っている人が多いです。

靴底の内側が特に減る人
変形性膝関節症に伴うX脚変形の人や偏平足の人によく見られます。

靴底が全体的に減りやすい人
肥満の人、体力や脚力が低下して膝関節が変形し、靴に過度の負担がかかる人によく見られます。

その他
歩行の癖、運動や仕事の姿勢、身体の歪み、足裏の魚の目の痛みなども靴底の減り方に影響します。

 

靴底の異常な減り方を改善するためには、根本的な原因を解決が必要となります。変形性膝関節症が原因となっている場合には、治療が優先されます。

インソール 足底板

インソール(足底板)

例えば、変形性膝関節症の治療の一環として、靴のインソール(足底板)を使用されることがあります。インソール は、その人の歩き方や足のアライメント、足部のアーチなどを考慮し、普段使い慣れている靴に適合する物がよいです。市販でも様々なタイプのインソール が販売されていますが、変形性膝関節症の場合、保険が適応したインソールを購入することができます。

まとめ

歩行をする上で、膝の機能低下はそのまま歩行機能の低下につながります。歩行周期の乱れや歩行の代償動作により、反対側の膝や腰、足関節など患部以外にも影響を及ぼしますので、変形性膝関節症の症状がみられるときは、早期から治療を開始することが大切です。その際は患部の状態だけでなく、歩き方や靴の状態にも注意を払いましょう。

 

No.0009
監修:院長 坂本貞範

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