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原因の分類
スポーツや重労働など膝に負担がかかることをしていないのに、膝に痛みを感じて病院へ行くと、変形性膝関節症と診断されることがあります。この疾患はその名の通り、膝関節が変形することにより痛みなどの症状が出てきます。日本では変形性膝関節症の患者数が約3,000万人と推定されており、特に高齢者で多く見られます。確かに関節の変形は加齢により発症することが多いですが、変形性膝関節症になる原因は加齢によるものだけではありません。
変形性膝関節症となる原因は、「一次性」と「二次性」に分けられます。一次性の変形性関節症は原因となる外傷(ケガ)などがなく、加齢や肥満、日常生活の習慣として発症するものであり、変形性膝関節症の原因としてはこの一次性が多いです。二次性の変形性関節症としては、外傷や先天性異常など発症の原因があるものが分類されます。
一次性の原因
加齢
一次性の原因として、年齢は大きな要因となっています。年齢別に見ると、40歳代でも関節軟骨の劣化により発症が見られますが、特に70歳以上になると発症の割合が高くなります。これは加齢による関節軟骨の退行性変化が原因と考えられます。
性差
変形性膝関節症では、女性の発症率が男性と比べると格段に高くなっています。これは女性ホルモンが関係しているといわれています。骨は常に新しい細胞と古い細胞が入れ替わっていますが、このサイクルには女性ホルモンが大きく関与しています。女性は閉経すると女性ホルモンが減少するため、男性と比べると骨が脆くなりやすいです。
肥満
体重が1kg増加すると、歩行の場合では平地で3~4倍、階段昇降の場合では6~7倍の負荷が膝にかかります。このことからも分かるように、体重の増加はダイレクトに膝への負担が増えます。日々の生活で歩いたり階段を利用することが多い方は、特に体重をコントロールすることが重要です。
筋力の衰え
膝の周りには様々な筋肉があり、これらの筋肉が関節の負担を吸収して軽減させます。しかし運動不足などで筋力が低下すると、関節の負担が増えて、不安定感も増してきます。特に太ももの前側についている「大腿四頭筋」という筋肉が大きく関与していますので、この大腿四頭筋を中心に膝関節周囲の筋肉が低下しないように注意が必要です。
日常生活の習慣
膝には立っているだけでも負荷がかかっていますが、仕事が立ち仕事であったり、重い物を運ぶような重労働では、デスクワークのような仕事と比べて膝への負担が大きいです。またスポーツをよくしている方や歩行での移動が多い方なども、膝への負担が増えています。このような状態が日常的に続くと、関節軟骨は磨耗されやすくなり、変形性膝関節症へと移行していきやすくなります。
下肢の変形
両膝を揃えてまっすぐ立った時に、膝が離れているO脚の方や、膝を揃えると足首が離れていくX脚の方は、体重の荷重が関節の内側や外側に偏っていますので、変形性膝関節症になりやすいです。特に日本人では変形性膝関節症になっていなくてもO脚の方が多く、O脚の場合、内側の関節面の負担が大きくなっている状態といえます。
遺伝
最近の研究によると、変形性膝関節症には遺伝子が関係していることがわかってきました。理化学研究所の報告によると、人間の体にある「一塩基多型」という遺伝子が関わっているとしており、この型を持っていない人と比較すると、持っている人は1.3倍も発症リスクが高いと結論付けています。
二次性の原因
外傷(ケガ)
二次性の変形性膝関節症は、発症の原因となる因子が判明している場合です。例えば、過去に損傷したことのある膝の外傷によって、年月を重ねていくうちに変形性膝関節症へと移行していくことがあります。特にジャンプ動作の多いバレーボールやバスケットボール、急な切り返し動作の多いサッカーやバドミントン、相手と接触することが多いコンタクトスポーツなどでは膝の外傷が多いです。具体的な疾患としては、関節の中にある前十字靭帯や半月板が損傷しやすく、これらの外傷を経験すると変形性膝関節症のリスクが高くなります。しかも残念なことに、この前十字靭帯と半月板は同時に損傷することがあります。そして変形性膝関節症の発症率を比較した場合、半月板あるいは関節軟骨の損傷を併発すると、前十字靭帯の単独損傷より3倍以上もリスクが高くなっています。
関節に影響を及ぼす疾患
上記の疾患以外にも、関節に影響を及ぼす疾患があります。例えば関節リウマチは自己免疫疾患の一つで、本来は外敵などから身を守る免疫が、健康な組織を攻撃する疾患です。特に腕や足の関節を攻撃することが多く、膝も例外ではありません。また関節リウマチを含む炎症性疾患だけでなく、腫瘍性疾患や骨系統疾患、先天性異常などでも変形性膝関節症に移行する場合があります。
変形性膝関節症の進行を防ぐ対応策
変形性膝関節症は、ある日突然発症するものではなく、少しずつ時間をかけて進行し症状が出始めます。そのため、痛みが我慢できなくなり病院へ行く頃には、関節軟骨や半月板がかなり損傷していることがあります。進行が進んだ変形性膝関節症には治療の選択肢も限られてきますので、膝に違和感を覚えたら早めに病院へ受診することをおすすめします。そして早い段階からの治療を開始しましょう。
変形性膝関節症の治療には様々な方法がありますが、原因によっては病院のリハビリだけでなく、日常でも行える対応策もあります。例えば膝関節は体重がかかる関節なので、標準体重より肥満傾向がみられる方は、体重の管理から取り組みましょう。減量をする為には、まず自分の食生活を見直し、過剰に摂取しているのなら摂取量を制限し、摂取している内容に問題があるのなら、食事の内容を変えていく必要があります。
また肥満や筋力低下が原因となっている場合、運動も必須となります。一般的に減量に対しては有酸素運動、筋力アップには無酸素運動が向いていますが、膝に痛みがある方は運動の内容を考慮する必要があります。手軽にできる有酸素運動としてはウォーキングがありますが、長時間の運動ができない人は、短い時間を複数回行うことでも効果がみられます。筋力トレーニングをする場合も、負荷を調整しながら徐々に強度や回数を増やしていきましょう。
さらに膝関節への荷重を軽減するには、杖の使用も有効です。杖を使うことで、痛みのある関節の荷重量が軽減されるだけでなく、歩行時の安定性も上がります。最近では杖の代わりに、キャスター付きのキャリーバッグを使う方も多いです。もし両方の膝に痛みが出ている場合は、押し車(シルバーカー)や歩行器を使うと安定して歩行ができます。
この他には、普段よく履く靴の選び方にも気をつけた方が
いいです。例えばハイヒールのようなかかとが高い靴や、革靴のようなクッション性が低い靴は、膝の痛みを助長することがあります。できれば普段よく履く靴では、運動靴のような安定性やクッション性の高い靴を選びましょう。
またO脚やX脚、足部のアーチが低下している人はインソール(足底板)といわれる中敷きを使用すると、足の負担が軽減するだけでなく、変形の矯正にも役立ちます。インソールは市販でも販売されていますが、病院ではオーダーメイドのインソールを保険適応で作ることができます。
まとめ
変形性膝関節症の原因には、一次性と二次性に分けることができ、発症の多くは一次性によるものです。一次性が原因となっている場合は、その内容に応じて対策を立てることができるものもあります。さらには、変形性膝関節症の原因が当てはまる方が事前に対策を取り組むことで、変形性膝関節症の発症を防ぐことができるかもしれません。
No.0003
監修:院長 坂本貞範