Contents
変形性膝関節症におけるリハビリテーションとは
日本の高齢化が進む中で、変形性膝関節症の患者数も増加しています。変形性膝関節症は筋肉や関節といった運動器による疾患であり、治療にはリハビリテーションが重要な位置づけになっています。変形性膝関節症のリハビリテーションには色々な種類があり、外来では超音波やマイクロ波などの機器を使い、物理療法や温熱療法が行われます。また施術セラピストがいる施設では、マッサージやストレッチ、機能訓練なども行われているところもあります。
ただし、外来によるリハビリテーションだけでは、回数的に足りないことがありますので、自宅でもできるリハビリテーションを実践することも重要です。ここではいくつかの実験報告をもとに、リハビリテーションの有効性を説明していきます。
SLR(straight leg raising)訓練とストレッチの効果
変形性膝関節症の治療においては、「大腿四頭筋」と呼ばれる太ももの筋力強化が効果的です。この「大腿四頭筋」は膝の運動に関わるだけでなく、関節の安定性にも関与しています。この「大腿四頭筋」を強化する方法はいくつかあり、その一つにSLR(straight leg raising)訓練というものがあります。
このS L R訓練は、仰臥位(上向き)で寝ていただき、膝を伸ばした状態で足を上げる運動です。この運動を自宅で継続した結果、1ヶ月目から膝の痛みが軽減し、日常生活動作も改善する効果がみられました。
驚くことにこの効果は、一般的な痛み止めである非ステロイド性消炎鎮痛剤(N S A I Ds)と同等のレベルでみられたのです。またストレッチを単独で実施した場合も、3ヶ月目には症状が緩和する効果がみられました。
歩行訓練と膝伸ばし訓練の効果
手軽に行える脚の運動としては、ウォーキングが最も取り組みやすい運動でしょう。このウォーキングを1日20分以上、週に5日以上してもらい、膝に痛みがある時は屋内で足踏み歩行を1セット100〜200歩、これを1日2セット行ってもらいました。その結果、1ヶ月目から痛みと日常生活動作の軽減がみられました。その後、評価の数値は緩やかになるものの、3ヶ月目であっても症状の改善傾向がみられる結果となりました。
パテラセッティング
クッションや座布団を膝の下に入れ、足先に重りをつけて膝を45度くらいに曲げた状態から膝を伸ばす運動も、太ももの筋力強化となりリハビリテーションとして有効です。この運動を1セット20回、1日2セットずつ3ヶ月行いました。この運動では歩行訓練よりは効果が低いものの、3ヶ月目まで症状の改善傾向がみられました。
この2つの運動は症状の改善だけでなく、歩行機能やイスの立ち座り動作も改善しており、下肢機能の向上に有効なリハビリテーションだといえるでしょう。
手術後のリハビリテーションの重要性
上記のように、変形性膝関節症ではリハビリテーションを実践することで症状が緩和され、手術を受けなくても日常生活を送れる方はたくさんいます。しかし残念なことに、リハビリテーションを行っていても変形が進行し、最終的な選択肢である人工膝関節全置換術(TKA:Total Knee Arthroplasty)を受ける方がいるのも事実です。
この人工膝関節全置換術は皮膚や筋肉を大きく切開し、金属などで構成された人工関節に置き換える手術です。痛みや変形の原因である関節を入れ替えるので、疼痛の緩和や可動域の拡大には高い効果が期待できます。ところが術後のリハビリテーション次第では、疼痛や可動域の改善が見られないケースもあります。
皮膚のリハビリテーション
手術により切開された皮膚のうち、表面の表皮は24時間以内に細胞が修復されます。その下にある層は3〜4日かけて皮下組織の線維が作られ、1週間ほどで傷口がしっかりとくっついてきます。この頃になるとようやく抜糸が可能となるのです。
正常の場合、この傷口は一時的に赤くなることがありますが、その後だんだんと赤みが引き、一時的に茶色に色素が沈着することもあっても、最終的には薄く目立たない色の傷口となります。
ところが正常の経過をたどらず、皮膚を形成する線維細胞が過剰に作られると、傷口がみみず腫れのように赤く盛り上がることがあります。これを肥厚性瘢痕といいます。
肥厚性瘢痕は経過とともに色が薄くなり、皮膚の肥厚も徐々に柔らかくなります。ところが繊維細胞が蓄積してしまうと皮膚が硬くなり、瘢痕拘縮を起こすことがあります。いったん瘢痕拘縮を起こすと柔らかくなるまでに時間がかかり、関節の動きも制限されますので、早めの治療が必要です。
肥厚性瘢痕には、貼り薬や塗り薬もありますが、皮膚を伸長させるリハビリテーションも有効です。傷口が関節部分にありますので、もちろん膝を曲げ伸ばしする動作でも皮膚は伸長します。ただし術後の場合、関節を動かすと痛みを伴うことがあり、また腫れにより関節が動かしにくいこともあります。そのような時は、傷口や傷口の周りの皮膚を優しくマッサージして、皮膚の血流や柔軟性を促すと良いでしょう。
関節のリハビリテーション
一昔であれば、術後の数日はベッドで安静にしていましたが、現在は血栓の予防や筋力が衰えることを防ぐために、早期から離床が指示されます。とはいっても術後すぐは痛みがありますので、ベッドの上でもできる足関節の運動などから始めるとよいでしょう。またベッド上で行うリハビリテーションの一つにC P M (Continuous Passive Motion)というものがありす。CPMとは持続的他動運動の略で、器械を使いゆっくりと膝の曲げ伸ばしを反復する訓練です。C PMでは足を支える面積が広いので安定感があり、屈伸のスピードや可動域を一定に保つことができます。
日常生活動作の訓練
車椅子で移動ができるようになれば、平行棒を使った歩行訓練などが開始されます。この時期のリハビリテーションでは自宅の環境を配慮して、日常生活動作の指導も行われます。人工膝関節全置換術をすると、正座をするだけの可動域が獲得できず、イスを使った生活様式が推奨されます。またスムーズに立ち上がるためにも、布団からベッドに変更すると便利です。生活習慣で歩行での移動が多い方は、杖歩行を指導することで転倒のリスクを軽減できます。
また術後の筋力低下はすぐには回復せず、退院後も継続してトレーニングを続ける必要がありますので、自宅でもできる運動プログラムを作成するとよいでしょう。
まとめ
変形性膝関節症に対して、リハビリテーションはとても重要な治療です。それは手術をしなくてもいいように行うものだけでなく、手術をした後も重要な治療となっています。さらにいえば、術前のリハビリテーションでどれだけ筋力をつけることができたかによって、術後の成績が変わってきます。治療には痛み止めの薬や注射が処方されることもありますが、自分でも運動療法に取り組むという意思がとても大切です。
No.0007
監修:院長 坂本貞範