変形性膝関節症における手術療法の違いとは

変形性膝関節症とは

厚生労働省の統計によりますと、国内での変形性膝関節症の患者人数は、自覚症状を感じている方が約1,000万人、自覚症状はないがレントゲン撮影により潜在的に推定される患者人数が約3,000万人となっており、国民病の一つといっても過言ではありません。変形性膝関節症は加齢より発症することが多く、放っておくと症状が進行するケースがよく見られます。もしも病院で変形性膝関節症と診断をされたら、痛みを我慢せず、早期から治療に取り組んでいきましょう。

保存療法

変形性膝関節症の治療には、大きく分けると保存療法と手術療法の2種類があります。保存療法とは手術を行わない治療法のことをいいます。変形性膝関節症で行われる保存療法では、様々な治療方法があります。

まず病院などで一般的に行われるのが、薬を使った薬物療法です。痛み止めのお薬やシップ、膝の潤滑油にもなるヒアルロン酸注射、痛みのある場所を中心に投与されるステロイド注射などがあります。
また病院によってはリハビリを行なっている施設もあり、そこでは理学療法が行われています。変形性膝関節症に対する理学療法としては、膝を温める温熱療法、膝に低周波を当てる電気療法、マシンなどを使った運動療法、セラピストの施術による徒手療法などがあります。他にもサポーターや杖を使って膝の負担を軽減する装具療法もあります。

保存療法では、一つの方法を試すのではなく、複数の治療法を組み合わせて行う方が効果です。また日常生活で膝に負担をかけないような指導がされたり、自宅での筋力トレーニングなどが指示されます。

保存治療

手術療法

上記のような保存療法を行なっても痛みが軽減しなかったり、膝の曲げ伸ばしが制限されることにより、日常生活動作に支障をきたしている場合は、手術療法が選択されます。変形性膝関節症では、症状や年齢などに合わせて、主に次の3つの手術療法が選択されます。

内視鏡視下術

変形性膝関節症に限らず、膝関節の中にある靭帯損傷や、炎症が起きている滑膜の切除、関節ねずみといわれる軟骨の遊離体の摘出など、膝関節の様々な疾患で内視鏡による手術が行われます。変形性膝関節症に対しては、半月板と呼ばれる軟骨が損傷していることがありますので、表面を削り取り、関節の動きを良くします。

膝 内視鏡

手術の方法としては、内視鏡といわれる小型のカメラを見ながら、挿入した器具を使い病巣部分を切除します。カメラと器具はとても細く、傷口はわずか2〜5mmほどで済みますので、体の負担が少ない点が特徴です。手術をした翌日からは歩くこともでき、入院期間は3〜7日と他の手術と比べて格段に短いです。

内視鏡視下術は、半月板の表面を滑らかにする手術法ですので、高度に変形した関節面を整えるような手術ではありません。したがってこちらの手術は、軽度から中程度の変形性膝関節症が適応となります。

高位脛骨骨切り術(H T O手術)

変形性膝関節症が進行すると、ほとんどの方が膝関節の内側の隙間が狭くなってきます。そうなるとO
脚のように変形し、ますます内側への負荷が強くなり、悪循環のように内側の変形が進行していきます。そこで部分的に骨を切り、すねの骨の角度を変えることで外側にも体重がかかるようにする手術があり、それを高位脛骨骨切り術といいます。この高位脛骨骨切り術は、進行度の初期から中期の段階が対象となり、膝が90度以上曲がる方が適応となります。脛骨とはすねの骨のことであり、手術の様式としては脛骨を膝関節付近で骨切りします。

内反骨切り術内反骨切り術

手術には2つの方法があり、1つ目は内側から外側にかけて脛骨を切り開いて、隙間に人工骨を埋め、金具で固定する方法です。最近ではこの方法が多く見られますが、矯正をする角度に限界があり、高度の変形性膝関節症は適応となりません。骨が癒合するまで時間が必要であり、入院中は歩行訓練が必要となります。しかし症例によっては退院後に正座ができるようになる方もおり、人工骨が吸収されて金具を取り除けば、スポーツや重労働ができるまでに回復する方もいます。

外反骨切り術外反骨切り術

もう一つの方法としては、脛骨を外側から楔形に切り取って短縮させ、金具で固定することで矯正をする術式です。切り取る骨の大きさによっては、足が少し短くなることもありますが、その分、高度な変形にも適応となります。ただし、軟骨の下にある骨まで損傷している変形であれば、次に説明する人工関節が適応となってきます。

 

高位脛骨骨切り術をするメリットとしては、やはり自分の関節を温存できるという点です。先ほども述べましたが、骨切り術の場合、人工関節と違って正座ができたり、スポーツをすることが可能となります。また、もし骨切り術をした後に変形が進行したとしても、人工関節の手術を受けることは可能です。

では一体どれくらいの方が、骨切り術のまま膝関節を維持できているのでしょうか。ある論文では10年後の維持率が約80%、15年後では65%という数字が示されており、多くの方が良好な術後成績で日常を過ごされています。

高位脛骨骨切り術をするデメリットとしては、固定するために金具を入れますので、傷口が大きくなります。また骨が癒合するまで時間がかかりますので、入院期間や活動制限の期間が長くなります。そこで、変形が進行した場合のリスクを考えて、骨切り術をするよりも最初から人工関節をするというのも選択の一つです。

人工膝関節置換術

変形により我慢できなくなるほどの痛みが出てきたり、膝の曲げ伸ばしの制限により日常生活動作に支障が現れてくると、人工の関節に置き換える手術が選択されます。人工関節の素材は、金属やセラミック、ポリエチレンによって構成されています。

また人工関節には、膝関節全体を人工関節に置き換える全人工膝関節置換術(Total Knee Arthroplasty:TKA)と、膝の一部を人工関節に置き換える単顆人工膝関節置換術(Unicompartmental Knee Arthroplasty:UKA)があります。変形による骨の破壊が全体に広がっている場合は、全人工膝関節置換術が選択されますが、関節の内側ないし外側のみが変形している場合は単顆人工膝関節置換術が選択されることがあります。

TKA UKA

 

また従来よりも小さな傷口で手術を行う、最小侵襲(M I S)人工膝関節置換術というものもあります。これは皮膚や筋肉の切開をできるだけ最小に留めた術式です。

一般的な術式では15〜20cmほどの皮膚切開をし、膝の周りの筋肉も大きく切開しながら人工関節に置き換えます。ところが最小侵襲での手術は、8cm~12cmほどの皮膚切開で従来と同様の手術を受けることができるのです。皮膚や筋肉の切開が小さいと、それだけ術後のリハビリ期間も短くて済むことがあります。

ただし人間の骨と同様に、人工関節であっても負担がかかり続けることにより、金属部分が磨耗していきます。さらに人工関節を挿入した部分で緩みが出てくることもあり、耐久性には限界があります。その耐久性は一概にいえるものではなく、仕事や運動の活動度、日常の習慣、体重などによって人工関節の消耗具合が変わりますので、継続した経過の観察が必要です。場合によっては再び人工関節を入れ替えることがありますので、手術を行うタイミングは年齢や術前の身体状態などを考慮して決める必要があります。

 

まとめ

変形性膝関節症の手術は、進行の時期や症状の程度によって選択されます。特に骨切り術や人工関節置換術では筋肉の侵襲が大きいため、術後だけでなく術前のリハビリも重要となります。

入院中は元の生活に戻るためのリハビリが中心となりますが、退院後は個々の状態に合わせたリハビリが必要となります。また手術となれば入院をすることとなり、家族の協力が必要となることがありますので、どの手術をどのタイミングで受けるのかは、医師や家族としっかり相談をした上で決めましょう。

 

No.0005

監修:院長 坂本貞範

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