変形性膝関節症におけるインソール(足底板)について

変形性膝関節症とは・・・

膝関節の中には2種類の軟骨があります。一つは関節の表面を覆っている硝子軟骨と、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)の間にあり、クッションの役割を果たす線維軟骨(半月板)があります。変形性膝関節症では関節面を覆う硝子軟骨が、加齢や膝の骨折、半月板損傷などにより擦り減ってしまい、変形をきたす疾患です。

変形性膝関節症では加齢による退行性変化、力学的な負荷、肥満、生活環境などが多くの原因とされています。特に、日本人は長年の膝への負担による発生頻度が非常に多いとされています。変形性膝関節症の患者数をみてみると、40歳以上の人で2530万人以上と推測されており、多くの人が膝のことで悩みを抱えています。

変形性膝関節症の仕組み

変形性膝関節症の症状

内反変形(O脚変形)

また、擦り減った軟骨は元に戻ることがなく、変形性膝関節症になると、様々な症状が現れます。症状で最も多くみられるのは膝の痛みで、最初の頃は立ち上がりや歩き出しなど、動作の開始時に痛みが生じます。しかし、しばらく安静にしていると痛みは軽減してきます。更に症状が進行してくると、動いていなくても痛みが出てくるようになります。

膝が腫れてくると曲げ伸ばしの動きが悪くなり、更に症状が進行していくと、膝関節が変形していきます。変形の仕方は、多くの方が膝の内側がすり減りによる内反変形(O脚変形)が起こります。

これは日本人の骨格が、原因の一つだと言われています。日本人の骨格は、形状的に脛骨が内側に反っています。これにより日本人ではO脚になる人が多いですが、反対に脛骨が外側に開いていくとX脚になります。
歩行時における荷重は、膝関節の中心よりやや内側を通ることが多いとされています。膝関節の内側に荷重がかかるということは、よりO脚になりやすい力が膝に働いているということです。このように膝の内側に偏った力の働きを、「内反モーメント」といいます。

変形性膝関節症においてはほとんどが内反変形となり、膝の内反モーメントが過大になってしまいます。過大な内反モーメントは膝内側部にストレスを与え、膝関節のクッションの役割をもつ半月板が損傷したり、関節軟骨が摩耗するといった障害を加えることになります。それにより内反変形が進行し、さらに内反モーメントも増加することで、痛みや変形の進行がすすんでいく結果に繋がっていきます。O脚の図

このような病状の進行により、膝関節の動きが悪くなり、だんだんと正座をすることさえ困難になってきます。そして徐々に歩行も難しくなり、杖や歩行器などが必要になる方もいます。膝をかばって無理な歩行を続けていると、他の部位にもだんだん障害が出てくる方が多いです。

軟骨がすり減ると関節面の適合が不安定になり、それに加えて膝周辺の筋力が衰えることで、さらに膝関節が不安定な状態になります。他にも症状の進行に影響を与える要因として、肥満や骨粗しょう症などが挙げられます。

特有歩行 ラテラルスラスト(lateral thrust)

また、ラテラルスラスト(lateral thrust)という、変形性膝関節症特有の歩様がみられるようになります。ラテラルスラストとは、歩行時に膝関節の外側へぶれるような歩様のことです。ラテラルスラストが起こる人の歩行は、膝の内反ストレスが加わりやすい構造をしています。健全な人の歩行においても、膝関節に加わる力は内側の方が、外側よりも数倍大きくなります。ラテラルスラスト

膝の内反ストレスが長年積み重なることで、膝関節の軟骨が摩耗し、関節の隙間が狭くなります。また半月板の変性がおこり、衝撃吸収機能を著しく低下させ、膝の内反ストレスを増加させる要因となります。このようにラテラルスラストは、変形性膝関節症を進行させる大きな原因といえます。ラテラルスラストが起きている原因をしっかりと評価して、変形性膝関節症の進行を予防することが大切です。

足関節のアーチが低下する

一方で変形性膝関節症の影響は、足の関節でもみられます。脚のアライメントが崩れることで、足関節における背屈(つま先を上げる動作)の可動域の低下を引き起こします。また回内(かかとの骨が内側に倒れる)や内側縦アーチ低下(土踏まずの高さが低くなる)などにより、回内偏平足となります。

足 正常アーチ足関節 アーチ低下

変形性膝関節症の治療法は?

変形性膝関節症の治療法は、これ以上症状を進行させず、痛みを軽減する目的でおこないます。かなり症状が進行している場合は、手術による関節鏡視下手術・骨切り術・人工関節置換術などがありますが、症状的に初期の方は、保存的な方法(手術をしない方法)が行われます。その内容も様々で、痛み止めの薬や湿布などの薬物療法、温熱療法や電気療法などの物理療法、ヒアルロン酸などの関節内注射、筋力強化や関節可動域訓練などがあります。

インソール(足底板)

今回、保存的治療で取り上げたいのが、インソール(足底板)による装具療法です。インソールとは中敷きをパッドで補強し、足の機能改善を目的に、全身の構造的バランスを安定的に保持させるものです。最近は、スポーツでのパフォーマンスを改善させる手段としても注目されており、痛みの軽減だけでなく、捻挫などケガの予防効果・再発の予防効果も期待できます。またストップやジャンプなどの動作の手助けとなります。

シューズ選び

膝関節に痛みがみられるのは、膝を曲げて力を出しているとき(階段昇降時など)、歩行開始時、痛みがある脚側に身体が傾くとき、踏み込み時などが挙げられます。これらの症状を改善させるものとして、まずはシューズ選びが重要なものになってきます。

インソールはシューズとの相性によって、効果が大きく変わります。シューズがしっかりしているだけで、インソールの効果が最大限発揮されるので、これだけでかなり歩行が楽になります。実際どのようなシューズを選ぶのがよいのか例を挙げます。

正しいシューズ

*紐やベルトで甲が固定されているシューズ
*接地面積が広いシューズ(ワイドで幅の広いもの)
*靴底にしっかりとした厚みのあるシューズ

間違ったシューズ

*軽いシューズ
*ハイヒールなどの踵部分が高くなっているシューズ

などが挙げられます。

軽いシューズは選ばれがちですが、安定性の観点からみると足が動きすぎるので、良いとはいえません。またハイヒールなどは不安定な歩行になりがちなので、なるべく履くべきではないといえます。これらの要素を元に自分の足にあったシューズを選び、そのシューズの性能を補うための、補填的な用途でインソールを作成していきます。

インソールがもたらす効果

1.足の構造を支えることで、安定感が増して膝への負担が軽減する。
2.踵から膝に直接来る衝撃を和らげる。
3.膝の変形によって出てきた脚の長さの差を調整できる。
4.壁や傾斜をつけて、身体が過度に揺れるのを抑え、歩行時の安定感が向上する。

インソールを作成する上での注意点

これらの効果を期待して、その人の症状にあったインソールを作成していくという流れになるのですが、ここで注意すべきことは全体をみることです。足の状態、足の機能、膝の曲がり具合、姿勢、腰の高さの差、筋力、歩行などです。

局所部分だけをみてインソールを作成してしまうと、他の部位への影響が大きくなります。例えば、O脚の矯正に足の外側に傾斜だけを入れて作成してしまうと、外反母趾を促してしまう構造になってしまいます。外反母趾も考慮しつつ、膝の安定性を高めるためにどうするかが重要なものになります。インソール 足底板

インソール作製の流れは先程も説明したと通り、全身の構造的バランスを考え、その人に合ったシューズとインソールを、バランス良く作成する必要があります。まずはしっかりとその人の症状を問診で聞き取り、歩行の状態を観察(裸足での歩行と靴を履いての歩行の二通り)し、足の裏の形の記録(重心のずれ、圧の集積がないか)をとっていきます。

その人の悩みをしっかり聞き取って、全身の状態をみて作成していきます。変形性膝関節症では、特に初期症状でのインソールによる予防が効果的です。

 

No.0024

監修:院長 坂本貞範

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