変形性膝関節症とO脚との関係
変形性膝関節症とは、加齢に伴い膝関節の軟骨がすり減り、関節が変形していく疾患です。外傷によっても引き起こされますが、中高年以降で明らかな原因がなく膝に痛みを感じる場合は、変形性関節症によるものかもしれません。性別では、女性に多くみられる疾患です。
変形性膝関節症を診断するには、レントゲンによる画像診断が確実です。変形性膝関節症の画像所見としては、関節の隙間が狭くなっている、骨の端がトゲのように変形している、負担がかかっている関節部分に白い骨硬化像(こつこうかぞう)などがみられます。これらの所見はレントゲンを撮らないと確認できませんが、変形性膝関節症を患っている方は、O脚になることが多いです。
O脚とは足首を揃えて立ったときに、膝と膝の間に隙間がある脚のことを指します。膝から下の脚が内側に変形していることから、内反膝あるいは内反変形ともいわれます。
O脚の原因は、生理的な変形と病的な変形に大別することができます。一般的に乳幼児の膝はもともとO脚になっており、歩行を開始する頃より徐々に外反していき、2歳~6歳にかけては逆にX脚へとなります。その後、X脚(外反)は少し減少し、7歳ぐらいで成人の脚に近くなってきます。このような生理的な変化は左右対称にみられ、痛みや機能障害などは発症しません。
病的なものとしては、靱帯の損傷(膝の内側や外側についている靭帯の弛緩や欠損)、先天的または後天的に大腿骨や脛骨に形態異常(Blount病やくる病など)がみられる、外傷後の変形(骨端線損傷や膝の関節面の骨折など)に分けられ、片側だけにみられる変形は病的なものを疑います。
下肢の評価
下肢の評価をするために、ミクリッツ線というものがあります。ミクリッツ線は大腿骨の上端である大体骨頭と、足関節の中心を結んだ線のことです。下肢荷重線(Mechanical axis)とも言われ、体重がかかる軸を表しています。正常な下肢であれば、ミクリッツ線は膝の中心を通るため、膝に掛かる体重はバランスよく分散されています。しかし、O脚になった膝では荷重線が膝の内側を通るようになり、O脚の状態で体重が加わると関節の内側に荷重が集中します。
関節の内側に荷重が集中すると、内側の関節軟骨は磨耗し、隙間が狭くなり、変形が助長されます。そうなると膝は「く」の字状に外側へ開いていくようになり、ますますO脚が進行していきます。
このO脚を改善させる方法としては、外側に開こうとする力に対して、内側に引き戻そうとする力を強化すればいいということになります。膝を内側に引き戻す作用がある筋肉は、おしりに付いている大臀筋(だいでんきん)や内転筋といった筋肉があります。また膝を安定させるのに最も重要な筋肉に大腿四頭筋(だいたいしとうきん)という筋肉があり、これらの筋力を鍛えることで、O脚の改善が期待できます。
筋力トレーニング
大臀筋
大臀筋はおしりの表層についている最も大きな筋肉で、主に足を後ろに上げるような運動のときに作用します。また足を内側に閉める動作をする時にも補助的に働きます。
この筋肉を鍛えるためには、うつ伏せになり、膝を伸ばした状態のままゆっくりと足を上に上げていきましょう。この時、足が横の方に上がっていないか注意します。必要以上に足を上げようとすると、体が捻れて骨盤が浮き上がってしまいますので、骨盤が浮き上がらない範囲で行います。
また大臀筋のトレーニングは仰向きになってもできます。仰向きに寝たら膝を立てて、おしりをゆっくりと持ち上げます。どちらの方法でも効果はありますので、体や膝の具合を考慮し行いやすい方法で取り組みましょう。
内転筋
内転筋とは太ももの内側についている筋肉で、足を閉じる動作で働く筋肉です。
この内転筋は、薄筋(はっきん)、長内転筋、短内転筋、大内転筋、恥骨筋の5つの筋肉を合わせた総称です。内転筋のトレーニングとしては、足と足の間にクッションやボールなどを挟み、それらをゆっくりと締め付けていきます。こちらのトレーニングは寝た状態でも、座った状態でもできます。
大腿四頭筋
大腿四頭筋は太ももの前面についている筋肉で、主に膝を伸ばす作用があります。大腿四頭筋のトレーニングはイスに座った状態で行います。なるべくイスに深く腰掛け、膝をゆっくりと伸ばしていきます。この時、なるべく膝はまっすぐと伸ばし、足を下ろす時もゆっくりと下ろすようにしましょう。
またスクワットを行えば、大腿四頭筋を中心に下肢全体の運動をすることができます。スクワットは負荷が強い運動ですので、膝に痛みがある方は無理をせず、イスの背もたれなどにつかまりながら安全に行いましょう。
またスクワットの仕方を誤ると痛みを誘発する原因になる可能性もありますので注意が必要です。足は肩幅より少し広めに開いて、イスに腰かけるようにお尻を後ろに引きながらゆっくりと腰を下ろします。この時に、膝が足の爪先よりも前に出ないよう心がけ、膝が内側に入らないようにします。
どの運動にも共通していますが、力を入れるときはゆっくりと動かし、力を抜いて元の位置に戻るときもゆっくりと動かしましょう。また回数は少し疲れたと感じるくらいの回数から始め、慣れてきたら少しずつ増やしていきましょう。
装具を用いたO脚の矯正
O脚を矯正するためには、インソール(足底板)を活用するのも効果的です。O脚の場合、すねの骨である脛骨が外側に倒れています。そこで外側が少し高くなっているインソールを使うことで、脛骨の傾斜を減らすことができます。またインソールを使うことで、踵から膝へ伝わる衝撃を緩和させる効果もありますので、膝の痛みの軽減にも繋がります。
インソールは市販の物もたくさんありますが、足の形は人それぞれですので、自分に合わないインソールを使い続けると、返って症状を悪化させる場合があります。インソールを購入する際は、整形外科などで自分の足の型を測った上で作製してもらう方がおすすめです。
またO脚は変形性膝関節症の人だけがなるものではありません。普段の姿勢や生活習慣などによっても影響は受けます。例えばイスに浅く腰掛けるような座り方や、横座り、足の組み癖など座り方の姿勢が悪ければ骨盤のアライメントが崩れてきます。サンダルやハイヒール、サイズの合っていない靴を履いていると足のアライメントや歩行が崩れてきます。このような不良姿勢を長時間繰り返していると、次第に下肢のバランスが悪くなり、筋肉の過緊張などを起こしO脚へと繋がるのです。また膝関節は体重を支える関節でもありますので、肥満傾向の方はO脚や変形性膝関節症になりやすくなります。そのため食事の制限や運動療法を行うなど、体重のコントロールにも注意が必要です。
手術によるO脚の矯正
基本的にO脚変形だけの症状では手術まで行うことは少ないです。しかし痛みを伴ったり、変形により膝の曲げ伸ばしが行いにくくなり、日常生活動作に支障がきたしている場合などは、手術が行われることがあります。
O脚を矯正する手術としては、自身の関節を温存する「脛骨高位骨切り術」が施行されます。これはすねの骨である脛骨を膝の近くで切り、O脚になった傾きを矯正する方法です。自身の関節を温存していますので、術後も正座などの動作が可能であったり、スポーツや肉体労働をされる方におすすめです。
また変形性膝関節症が進行しており、関節面の変形の度合いが大きい場合は、大腿骨と脛骨を切り取り、人工関節を入れる「人工膝関節全置換術」が選択されることもあります。当初は10~15年とされていた人工関節の耐久年数も、現在では素材やデザインが進歩し、正しく手術が行われれば20年以上期待できるようになってきました。
いずれの術式にしても、手術により筋力の低下や拘縮がみられることがありますので、術後のリハビリが重要となってきます。
このように変形性膝関節症によるO脚になると、筋力トレーニングや装具、手術によって矯正することが可能です。ただし筋力トレーニングや装具による強制では限度があり、また手術によるものでは体への負担が大きくなります。変形性膝関節症の場合は症状が進行するに従いO脚も増大する傾向にありますので、変形が進行しないよう治療に取り組むことがO脚の進行を防ぐことにつながります。
No.0014
監修:院長 坂本貞範