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変形性膝関節症はどんな疾患?
変形性膝関節症とは、膝関節を構成している骨が変形することで、痛みや可動域制限をきたす疾患です。80代では7割以上が変形性膝関節症を患っているとされており、加齢によって発症するといっても過言ではありません。ただし、激しいスポーツをしていた人などは、膝関節の中にある前十字靭帯や半月板を損傷した経験のある人が多くみられ、それらの疾患の後遺症として、若年者であっても変形性膝関節症の発症リスクが高まるといわれています。また転倒や事故などでは膝関節の中に骨折が発生することがあり、骨折の癒合によっても発症のリスクが高まりますので、一概に加齢によるものだけとはいえません。
膝関節は太ももの骨である大腿骨と、すねの骨である脛骨、膝のお皿ともいわれる膝蓋骨により構成されています。この大腿骨と脛骨の関節面は軟骨で覆われており、変形性膝関節症ではこれらの軟骨が磨耗することで関節が変形していきます。また膝関節の中には半月板とよばれる軟骨も存在します。この半月板は大腿骨と脛骨の間にあり、関節の位置を安定させる働きがあります。さらに体重による荷重や、地面からの衝撃を和らげる役割もあります。変形性膝関節症では、大腿骨や脛骨の軟骨だけでなく、半月板も損傷されていることが多いです。
他にも骨同士を繋ぎ合わせている靭帯や筋肉があり、これらが損傷することで膝関節が不安定となり、変形性膝関節症へ移行する原因となります。このように膝関節を構成している組織は色々ありますが、その中で私たちが意識的に強化できるのは筋肉だけです。つまり変形性膝関節症の予防や治療には、筋力トレーニングが重要だということが分かります。
変形膝関節症に対する運動療法において、重要となる筋肉をいくつか紹介します。まず膝関節を曲げ伸ばしさせる筋肉として、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)、ハムストリングスなどがあります。また変形性膝関節症では痛みの症状により、膝をかばうような歩き方になります。歩行時に重要な筋肉の一つに、体幹を支える中臀筋(ちゅうでんきん)がありますが、この筋肉が低下すると、歩き方のバランスが崩れていきます。さらに変形性膝関節症では、関節の内側が変形して隙間が狭くなりやすく、それに伴いO脚のように膝が外側に開いていきます。このO脚変形を抑えるためには膝を内側に閉める筋肉である、大臀筋(だいでんきん)や内転筋(ないてんきん)が重要となってきます。それではそれぞれの筋力トレーニングの方法をみていきましょう。
筋力トレーニング
大臀筋(だいでんきん)
大臀筋はおしりの表層にある最も大きな筋肉で、主に股関節を伸ばすような運動のときに作用します。例えばイスから立ち上がる時や、歩行で後ろ足を蹴りだす時などで大臀筋が働きます。また股関節を内転(内側に閉める動作)させる時にも、補助的に作用します。
仰向きでのトレーニング
- 仰向きになって寝たら膝を立て、おしりをゆっくりと持ち上げます。
おしりを下す時も、ゆっくり下すようにしましょう。
うつ伏せでのトレーニング
- うつ伏せになり、膝を伸ばしたまま、ゆっくりと足を上に上げていきましょう。
- この時に、足が横の方に上がっていないか注意します。
必要以上に足を上げようとすると、体がねじれて骨盤が浮き上がってしまいますので、骨盤が浮き上がらない範囲で行います。
どちらの方法で行っても効果はありますので、体や膝の具合を考慮し行いやすい方法で取り組みましょう。
中臀筋(ちゅうでんきん)
中臀筋はおしりの外側に付着している筋肉で、主に足を外に開く動作で作用します。単純に、立っている状態で足を外に開く動作でもこの筋肉は働きますが、歩行時でもこの筋肉は重要な働きをします。人間が歩く時は必ず片足で体を支えるタイミングがあります。その時、地面に足が付いていない側に身体が傾かないよう体幹を支えているのが中臀筋です。この中臀筋の筋力が弱っていると、片足立ちの時に体幹が傾いた歩き方になります。これをトレンデレンブルグ跛行といいます。
また同じく中臀筋の筋力が弱っていると、地面に足を付けている側に体を傾けて代償動作をする、デュシェンヌ跛行というものもあります。どちらにしても、中臀筋の筋力低下が原因で起こります。このような歩行は、変形性膝関節症の疼痛を悪化させることにつながりますので、注意が必要です。
立位でのトレーニング
- テーブルやイスの背もたれなどにつかまり、足を外側に開きます。
側臥位でのトレーニング
- 鍛えたい側の足を上にして、横向けに寝転がります。
- 足を外側に開くように、持ち上げていきます。
注意:真横ではなく少し前寄りになりやすいので、
まっすぐ真横に足が上がっているかを意識して行いましょう。
大腿四頭筋(だいたいしとうきん)
大腿四頭筋は太ももの前面についている筋肉で、人体の中で最も大きくて強い筋肉です。四頭筋といわれるように、4つの筋肉が1つにまとまっています。大腿四頭筋の中で唯一骨盤に付着している「大腿直筋」、太ももの外側を通る「外側広筋」、太ももの内側を通る「内側広筋」、大腿直筋の下層を通る「中間広筋」の4つの筋肉があり、これらが1つにまとまり、膝蓋骨を通って、脛骨の上端にある脛骨粗面に付着します。大腿直筋は骨盤に付着しており、股関節の運動にも関与していますが、大腿四頭筋としての主な作用は膝を伸ばすことです。
大腿四頭筋は膝関節を支えている筋肉ですので、この筋肉が弱ってくると膝関節が不安定となり、痛みが出る原因にもつながります。特に内側広筋は膝関節の内側を支持しているため、内側広筋の筋力が低下すると、膝関節の内側にある半月板や靭帯にストレスがかかり、痛みが出やすくなります。また筋肉のバランス的にも内側広筋が低下しやすく、外側広筋が発達しやすいです。そこで内側広筋はしっかりと筋力をつけて、外側広筋はストレッチやマッサージをして緊張を和らげれば、大腿四頭筋のバランスがとれます。
座位でのトレーニング
- イスに深く腰掛け、膝をゆっくりと伸ばしていきます。
- できるだけ膝はまっすぐと伸ばし、足を下ろす時もゆっくりと下ろすようにしましょう。
- 股関節を少し開き、足の伸ばす方向を外側にすれば、
より内側広筋に刺激を与えることができます。
スクワット
スクワットを行えば、大腿四頭筋を中心に足全体の運動をすることができます。スクワットは負荷が強い運動ですので、膝に痛みを抱えている方は無理をせず、イスの背もたれやテーブルなどにつかまりながら安全に行いましょう。またスクワットの仕方を誤ると、痛みを引き起こす原因になる可能性もあります。
- 足は肩幅より少し広めに開いて、イスに腰かけるようにおしりを後ろに引きながら
ゆっくりと腰を下ろしていきます。 - 膝が足の爪先よりも前に出ないように心がけ、膝が内側に入らないようにしましょう。
ハムストリングス
ハムストリングスとは太ももの後ろについている筋肉で、外側についている「大腿二頭筋」、内側についている「半腱様筋(はんけんようきん)・半膜様筋(はんまくようきん)」の3つを合わせた筋肉の総称です。この筋肉は股関節を伸ばしたり、膝関節を曲げるときに作用します。股関節や膝関節に関わっているこの筋肉が衰えると、体幹や下半身が不安定になります。また柔軟性の低下は膝の伸ばしにくさにつながるので、ストレッチを行い、筋肉を伸ばしやすくしましょう。
仰向きでのトレーニング
ハムストリングスのトレーニングでは、先ほど説明した大臀筋の仰向けの筋力トレーニングで鍛えることができます。
ストレッチ
膝を伸ばした状態で座り、体を前に倒すと、ハムストリングスのストレッチができます。また体幹の筋肉が硬い人は、タオルを使った方法が効果的です。
- 膝を伸ばした状態で座り、タオルを足先に引っ掛けます。
- 体を後ろに倒すと同時に、タオルを掛けた方の足を上に上げていきます。
- 注意:なるべく膝が曲がらないように気を付けましょう。
- 柔軟性が低下している人は、反対の膝が曲がってしまうことがありますので、両膝とも伸ばした状態を維持し、無理のない範囲でストレッチをしてください。
- ストレッチの目安は、だいたい10~20秒ほどです。
内転筋(ないてんきん)
内転筋とは太ももの内側についている筋肉で、足を閉じる動作で働く筋肉です。この内転筋は、薄筋(はっきん)、恥骨筋、大内転筋、長内転筋、短内転筋の5つの筋肉を合わせた総称です。日本人はもともとO脚の人の割合が多いですが、変形性膝関節症の予防のためにも、O脚の人は特に内転筋の筋力をしっかりと鍛えておきましょう。
仰向き、または座位でのトレーニング
- 足と足の間にクッションやボールなどを挟み、
足を閉じてそれらをゆっくりと締め付けていきます。
まとめ
どの運動にも共通していますが、力を入れるときはゆっくりと動かし、力を抜いて元の位置に戻るときもゆっくりと動かすと、鍛えたい筋肉をしっかりと収縮させることができます。回数は少し疲れたと感じるくらいの回数から始め、慣れてきたら少しずつ増やしていきましょう。また運動をする際に息を止めて力を入れると血圧が上昇しますので、運動中は息を止めない様に心がけましょう。
No.0004
監修:院長 坂本貞範