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変形性股関節症とその他の疾患との関係
変形性股関節症とは、股関節に痛みが出ると疑われる代表的な疾患です。関節を滑らかに動かすために骨の表面でクッションの役目をする「関節軟骨」が、何らかの原因によりすり減ってしまうことで起こります。
生まれつき股関節の形状に問題がある「先天性股関節脱臼」や「臼蓋形成不全」などがある方が、後に変形性股関節症を発症するケースが多いのですが、そうした股関節の異常がなくても老化などにより変形性股関節症になることもあります。
発症する時期は10代から老年期まで様々ですが、先天性股関節脱臼などがあっても10代・20代頃は痛みや不具合を感じないことが多く、30代から40代以降で変形性股関節症を発症することが多いです。
変形性股関節症の発生原因
変形性股関節症の発生原因は大きく分けて一次性と二次性の2つに分かれます。
一次性変形性股関節症
股関節に特別な異常が無くても、長い年月使い続けることで関節が少しずつすり減り、ある時点で痛みの自覚症状となって現れます。股関節に負担のかかる肉体労働やスポーツを続けている方に多いのが特徴で、なおかつ欧米人に多いタイプになります。
二次性変形性股関節症
生まれつき股関節に何らかの異常があることや病気により発症することで、これらのケースは日本人に多く見られます。二次性の中でも特に多いのは、小児期の病気の後遺症である「先天性股関節脱臼」や「臼蓋形成不全」によって発症するケースで、自覚症状がないままに中年になって発症する場合もあります。これらは男性よりも女性に多く見られる病気のため、変形性股関節症は女性の患者さんが多いといわれています。
それでは日本人の発症原因としてよくみられる「先天性股関節脱臼」と「臼蓋形成不全」について説明していきます。
先天性股関節脱臼とは
出生前や出産後の成長の過程で、股関節が脱臼を起こした状態をいいます。男児に比べると女児に多いとされています。先天性股関節脱臼は大腿骨を受け止めている臼蓋という受け皿になる部分が浅いために脱臼しやすいことや、関節が動く方向は正常だが、動きの程度が通常よりも大きく関節に緩みがあることが原因といわれています。外的要因としては、左右のどちらかに体を向けてしまう癖や、股関節の動きが制限されるおむつのつけ方があります。また、逆子で生まれた子供の発症頻度が高いともいわれています。
見た目の症状は、足の長さの違いや、太もものしわやお尻の形が左右差といった状態があります。また足を曲げた状態で股関節を開いた際に、脱臼している方の股関節の開きが悪いことがあります。年長児の場合、腰の反りが強く脱臼しているほうの足で立った時に反対側の骨盤が下がる症状があります。(トレンデレンブルグ徴候)
診断や検査については、通常3~4ヶ月ごろの乳児健診にて医師がチェックします。足の動きや長さの左右差、お尻の形、太もものしわを視診にて確認するほか、股関節に触れた状態で足を動かし、「コキッ」という音がなるかどうかを調べるテストにより診断します。
ただ診察のみで診断を下すのは非常に難しく、医師の感覚に頼る部分もあるため見逃されやすい可能性があります。そのため、正確に状態を確認する方法として、レントゲンや超音波にて検査していきます。特に超音波検査は股関節の動きも観察しやすいため、臨床においてよく使われています。
治療としては、リーメンビューゲルという専用の装具を使い、股関節を常に90°以上曲げた状態に保つという治療法により、多くは改善に向かうとされています。これで改善されない場合は、牽引治療や手術で脱臼の原因を取り除く観血的治療(手術)が行われます。
特に1歳児以降では、手術が必要になるケースが多いといわれています。また、手術で改善されても臼蓋が浅いなどが理由で再び脱臼を起こしてしまうケースもあり、症例に合わせて適切な方法が選択されます。
臼蓋形成不全
骨盤の形態異常のことをいいます。先天的あるいは後天的に臼蓋側の被りが浅く、股関節が不安定な状態を指します。日本人に多く、股関節痛の患者の約8割が臼蓋形成不全を有しているといわれます。
初期の症状としては、運動後や長時間歩いた後、股関節だけでなくお尻や太ももや膝などに鈍痛が出ることが多く、この痛みは数日で治まります。少し症状が進行すると、動き出すときに股関節の周囲に痛みを感じるようになります。痛む箇所は次第に股関節に限定して起こるようになります。
さらに進行すると、動かすことで股関節の前後に痛みが出現し、休憩しないと歩けなくなります。最終的には安静にしていても痛みが出現するようになり、痛みの度合いも強くなります。また、夜寝ている時に痛みが出現し睡眠が妨げられることもあります。
画像診断(レントゲン検査)
診断には画像検査が必要であり、主にレントゲンによって診断をします。レントゲンによる股関節疾患の診断では、「Sharp角」と「CE角」のふたつの指標が用いられます。
Sharp角
骨盤にある涙痕という場所を結んだ水平線と、臼蓋の外縁を結ぶ線がつくる角度のことです。成人のsharp角の正常値は性差もありますが35~40度で、40度を超えると臼蓋形成不全と診断されます。数値が大きいほど臼蓋形成不全の傾向にあります。
CE角
大腿骨頭の中心を通る垂線と、臼蓋の外縁を結ぶ線がつくる角度のことです。成人のCE角の正常値は25~30度であり、20度以下だと臼蓋形成不全と診断されます。このCE角の数値が小さいほど臼蓋形成不全の傾向にあります。
日常生活で気をつけること
変形性股関節症は、股関節に荷重などの負担がかかる生活や運動を続けてしまうと症状が悪化します。まずは日常生活に問題がないか見直してみましょう。
① 適度な運動
急性期や痛みが強い時は安静にする必要がありますが、股関節周りの筋肉の緊張を和らげて関節を柔らかくし、筋力をつけるために適度な運動が大切です。水泳や水中ウォークは、水の浮力で股関節の負担をかけずに行えるのが適切です。体力や股関節の状態に合わせてストレッチ等を行うことで可動域を広げ、痛みの改善にも繋がります。
② 体重コントロール
身体を支えている股関節には、歩くときは体重の約3倍、イスからの立ち上がり時には6~7倍、もっと低い位置からの立ち上がり時は10倍もの負荷がかかると言われます。このようにわずかな体重増加でも、股関節には負担が大きくなり、痛み症状の悪化に繋がります。肥満の方は運動でダイエットや食事メニューの改善を行い、適正体重を維持するようにします。
③ 冷えの予防
身体が冷えると血流が悪くなり、筋肉が固くなってしまうため痛みが強くなります。日ごろから腰回りを冷やさないようにし、お風呂などで十分に温めるようにします。
④ 生活スタイルの見直し
和式トイレなどの日本式の生活は股関節へ負担がかかります。なるべくベッドやイス、洋式トイレなどの洋式の生活スタイルに変え、股関節にかかる負担を減らすようにします。
変形性股関節症の治療方法
変形性股関節症の治療は、手術を行わない保存療法が有効です。薬物療法や運動療法により負担を減らしていきますが、保存療法で改善されない場合は、手術が検討されます。
変形が進んでしまった股関節には、骨を切って臼蓋を形成する骨切り術や、人工股関節手術がおこなわれます。ただし末期まで変形が進んでしまった股関節には、人工股関節に置き換える「人工股関節全置換術」が選択されます。これにより変形による痛みはほぼ無くなり、左右の足の長さも少なくなるため、快適な生活が送れるようになります。
まとめ
股関節を使い続けると関節軟骨の摩耗や変性が生じ、股関節の痛みや動きの低下で日常生活動作の制限が生じる疾患をいいます。
変形性股関節症の原因は、はっきりした原因はなく、軟骨が摩耗や変性して起こる一次性と、何らかの病気やケガが原因で起こる二次性の二つに分けられます。二次性の原因となる疾患で、先天性股関節脱臼と臼蓋形成不全によるものがあります。
日本人では臼蓋形成不全から変形性股関節症へ発展していく方が多いですが、臼蓋形成不全はレントゲンで確認することができますので、痛みがなくても違和感を感じれば、早期にレントゲン撮影を受けてみると良いでしょう。
No.0027
監修:院長 坂本貞範